小説の書き出し。

 小説の書き出しといえば有名なものはいくらでもあるわけだが、ぼく的に印象深いのが森絵都の『カラフル』。

 死んだはずのぼくの魂が、ゆるゆるとどこか暗いところへ流されていると、いきなり見ずしらずの天使が行く手をさえぎって、
「おめでとうございます、抽選にあたりました!」」
 と、まさに天使の笑顔をつくった。

 この脱力感。これだよなあ。自分の文章を読み返してみると、いつも余計なところに力が入っていると感じる。気負いすぎているのだ。その点、森絵都の文章は理想に近い。

 最近の大人向けの作品よりも昔書いていたジュブナイルのほうが好みではあるけれど、とにかくぼくにとっては最高の作家の一人なのであった。

カラフル (文春文庫)

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