プロットA・第一章あたり

 段々と、物語の具体的な方向性が見えてき始めて、執筆も順調に進んでいます。まず第一目標の完成を目指して、所々の穴は、現時点では無視をして、勢いよくキーボードを叩いています。何よりも自分自身が、早くこの先を書き上げたい、という幸福な執筆になっています。
 前置きが長くなって申し訳ございません。前回と引き続き、批評・意見・感想をお聞かせ下さればと思います。
 冒頭に関しては、下からお読みいただければと思います。
プロットA・冒頭 - このブログは移転しました。

第一章

 ベットから起き上がる。まだ身体には残り酒があるらしく、すこし眩暈を感じる。
 それでも這い上がり、ガラスを丁寧に処分し、使えなくなった紙に包む。
 机の隅に置いた手紙を改めて確認する。そこには確かに今日の日付に使いの者が現れることが記されている。
 椅子に座り、ペンを動かしていると、扉を叩く音がした。
 急いで扉を開けると、背筋を伸ばし、正装の男が立っている。
 「ゼファーソン卿の使いの者ですか?」
 男は黙って頷くと、踵を返し、階段を下りていく。僕も慌てて服を着ると、彼の姿を追いかける。
 外へ出ると、馬車がある。男を見ると、そこにのれ、という合図をしているようだ。
 馬車へ乗り込むと、従者は鞭を振るう。馬が鳴き、ゆっくりと馬車が発進する。
 僕は流れ行く風景を見る。さすがに昼間の街路は人が多い。
 ミーファは結局、最後まで酒場に残ると言っていた。盗賊の仕事は昼とは関係が無い。盗賊は自らの姿を照らし出す昼の光には興味が無いからだ。今は寝ているのだろうか。あの粘つくような泥とむせ返るような臭いのする、あの町で。
 段々と町から離れ、建物が消え、開けた、のどかな田園風景が見えてくる。恐らくは、あの場所がゼファーソン卿の住む家なのだろう。さすが貴族、といったところか。
 ゆっくりとドアが開けられ、執事が丁重に頭を下げる。
 「グラン先生ですね。お待ちしておりました」
 僕は奥へと案内される。部屋につくまでの間、壁にかけられた絵画や彫刻の類を眺める。
 絵画や彫刻は全く不自然なく並べられているのに、その流れが逆に何処か不自然な印象を与える。
 胸騒ぎがする。これはあまり深入りしてはならない。
 執事が一つの扉で止まる。執事がノックして、静かに開く。
 「ゼファーソン様、グラン先生をお呼び致しました」
 ゼファーソン、と呼ばれる長身の男は、こちらを背に向けて窓の外を眺めていた。
 僕は深々と頭を下げる。
 「ゼファーソン様、わざわざ呼んで頂き、光栄です」
 その男はゆっくりとこちらを振り向いた。皺が幾つか目立つが、元々の顔が洗練されているのか、渋さを強調している。その同道とした雰囲気と締まった身体は、多くの女性を魅了するには十分だろう。
 「ああ、君がグラン先生か。私がゼファーソンだ。よろしく」
 ゼファーソンが握手を求める。僕は手を重ねると、柔らかく上下に振る。
 なにも嫌らしいところがない。むしろ、好感が持てる。何一つ、かけるところがない。
 だからこそ、怪しい。
 普通、このような人物は偽詩を頼む筈が無いからだ。
 「ふむ、どうやら、何か疑問があるらしい」
 ゼファーソンは、僕の怪訝な顔を見て察したようだ。
 「立ち話もなんだ、そこに座りたまえ。執事もご苦労だった。下がりたまえ」
 執事は頭を下げて部屋から退出する。
 「で、疑問というのは何だ」
 僕は少し考える。そして慎重に話を進めることにする。
 「先ほどの繰り返しになってしますが、まず私を呼んで頂いたこと、真に光栄です。それと、壁に掛かっている美術品の数々、真に素晴らしい。思わず惚れてしまいました」
 「もうそのようなお世辞は聞き飽きたよ、詩人さん。それよりも、もっと聞きたいことがあるんじゃないのか」
 「いえ、私も芸術を志し、道半ばで筆を折った人間として、それは保証します」
 ゼファーソンは微笑んでいる。
 しかし、目は笑っていない。
 僕はそれを恐怖しつつ、言葉を続ける。
 「手紙で如何なる詩を書けばいいのか、は大体把握しています。それで実作はしていますが、やはりご本人を確認したいと思ってましたので、お会い出来ることはとても嬉しく思います」
 「はっはっは、詩人にしてはお世辞が下手だ。だがその簡潔な感じがよい。修飾が多いのは煌びやかだが直ぐに飽きる。で、偽詩家というのは、本人に頼んだ理由などを確認するものではないのかね?」
 ゼファーソンの笑い声は何処か人を安心させる大らかな雰囲気を感じさせる。
 「そうですね、基本的に確認はしませんね。聞いても大したことはありません。言葉は多いですが、二つの言葉で要約出来ます。見栄、とだけです。ですから確認することには意味がありません」
 と、ここまで喋って、不適切な発言をしてしまったことに気がついた。慌てて訂正しようとするも、ゼファーソンは上機嫌に笑っている。
 「君は面白い人だ。やはり君に頼んで正解だったみたいだ。私も本人を見ないと安心は出来ないのだよ。ところで君は昼食はまだかね?」
 「いえ、ご遠慮しておきます。作品を書くことに集中したいと思います」
 「うむ、仕事に集中することは良いことだ。君のことは気に入った」
 彼は手元の鈴を鳴らす。
 先ほどの執事が扉を開ける。
「おい、こいつを家に帰してくれ。あと幾分かのチップは忘れないようにな。昼食が無いのではかわいそうだ。君の身なりを見る分には、食事に困っているように見えるからな」
 僕はその指摘で、改めてぼろ布のような服装をしていることを思い返し、顔を赤く染める。
 執事は恭しく頭を下げ僕を玄関先に止まっている馬車へと案内し、何時もの、見慣れた街へと引き返すことにした。



「――で、そこまでがゼファーソンの話ってわけ?」
 久しぶりに扉から入ってきたミーファと、僕は例の酒場で飲んでいた。ミーファは退屈そうに、壁にだらしなくぶら下がった標的にナイフを投げている。ナイフが中心に当たるごとに、ちょっとした歓声が上がる。
「そういうこと」
 ミーファはナイフを投げる。ちょっと中心から外れたようだ。
「ちぇ、あと少しだったのに!グラン見た?」
「えーと、それより僕の話聞いてる?」
「で、その不自然なことっていうのは、何なの?」
「美術品の展示が洗練されすぎているんだ。成金商人の場合、価格が高いものであったり、作者が有名である人の作品を買い漁るもので、確かに、個々の作品を見ればとても素晴らしいものに違いない。しかし、並べてみれば、その全体のちぐはぐさが一目瞭然となる。しかし、ゼファーソンの場合、それを感じることが無かった。言ってみれば、余りにも自然なんだ。それが逆に不自然なんだ。それは美的センス、そしてそれを表現することに対して自信が無ければ出来ることではない」
「もうちょっと、わかりやすく言ってくれないかな。私はバカだから、言っていることよくわからないよ」
「んー、つまり簡単に言ってしまえばそんなこと出来るのは、成り上がりじゃ出来ないってこと」
 酒場の主人がワインを出して茶々を入れる。
「おー、ということは俺が有名になったら美術係はグランにまかせりゃいいってことだな」
 僕は愛想笑いをして、ワインのグラスに手をかけようとした瞬間だった。
 ドンファンが息を切らして走ってきたのだった。
「おい、グランはいるか?」
 何時も不真面目でおどけているドンファンが、何時になく真剣な顔をしている。そのためか、一瞬酒場が静まり返る。
「おい、ドンファン、お前の為にビールは用意してあるぞ」
「おう、ありがとう、ちゃんと樽ごと取ってあるか!俺はそれだけでも満足しない……ってそうじゃねえよ、グランだよ、グラン」
 僕は少し手を上げる。
「おう、そこにいたのか、お前、何かしたのか」
 ただ首を横に振る。そのような覚えはない。
「いや、お前の部屋から、なんか国のワンコロどもが出てきたからよお、何かやったのかって思ってここに走ってきたんだよ、そしたらここでお酒をのんびり飲んでいるってやつよ。俺はがっかりだよ」
 ドンファンはビールのつがれたジョッキを乱暴に奪うと、喉を鳴らして流し込む。
「運動のあとのビールは最高だな。オイ、で何かしたんだ」
 あるとするならば、一つしかない。
「……多分、ゼファーソン卿のことだ」
 ドンファンは空のジョッキを持ったまま、呆然とこちらを眺める。
「ゼファーポンかフェザーモンかわからないが、なんかそいつが関係あるのか?」
「わからないけど……とりあえず部屋に向かったほうがよさそうだな。お金はこれで足りるかな。お釣はいらない」
 僕はカウンターにお金を置き、酒場を飛び出す。すぐ後ろからミーファが追ってくる。
「ねえ、あの酒場のおっさん、むしろお金が足りねえんだよ、って怒ってたよ」
「次払うよ」
 僕の足取りは段々と遅くなり、街路の途中でへばってしまった。
「馬鹿みたい。体力無いのに無理して全力疾走するから」
「ぜー、ぜー……だってさ、自分がせっかく書き上げた詩に、何かあったら嫌だろ」
「あーね、でもさ、もう少し危機感持ったほうがいいよ、本当。よくそれでいままで捕まらなかったね。えーと、何かあってその現場に駆けつけてお縄、ってバカみたいな話じゃない。迂闊に外を歩いて牢獄に放り込まれたら、私はやだね」
「何でお前が怒ってるんだよ」
「そうなの!なんで私が怒っているのかわかんない!ああ、悔しい。取りあえず、私が先に行って様子を見てくるよ。餅は餅屋、現場は盗賊が見るのが正しいって奴」
 僕は息を整えながら、部屋を目指す。ミーファは既に扉の前にいて、大丈夫、の合図をする。中に何もないことがわかっていても、僕は扉を慎重に開ける。
 すると、中では椅子が散乱し、机が倒され、ベットはバラバラにされてしまっている。一束用意していた反故紙が無くなっていた。
「また大家に怒られるのか」
 僕は地面に落ちているインク壷を拾い、手の中で転がす。蓋のおかげで、中のインクはこぼれていない。
「随分暢気ね。少しは焦ったほうがいいんじゃない?」
「だからといって、真剣なことを考えればいいかというとそういうものでもないからね」
 僕は、手のひらでインクの壷を転がす。
「で、ミーファ、この状況をどう思う?」
「簡単ね。相手はずぶの素人だと思う。盗みに入った人間が、わざわざ盗みに入ったよ、って知らせると思う?彼らがやっているのはそういうこと。まー、王国の人がやりそうな、雑な仕事」
「多分、僕自身を捕まえることが目的ではないというのはわかる。なぜなら、こんな汚い荒らし方をしたら、犯人は飛んで逃げるだろう。しかも見張りがないこともおかしい。簡単に言ってしまえば、僕が目的じゃない」
 僕は散乱した椅子を立てて座る。そして机を指す。
「多分、問題は紙の束にある。彼らは偽詩の内容が知りたかった。だから、彼らは紙の束を持っていったんだ」
 ミーファは扉に寄りかかり、目を瞑っている。
「ふーん、結構、楽観的に考えているんだ」
「悲観的にならなくても済むくらいには、最悪な状況ではないってことさ」
「でも、最悪の状況は考えておくべき。ここにいることは、多分出来ない。どうする?隠れていたほうがいいんじゃない?」
「だけど、それはミーファや、その周囲に迷惑がかかるだろう」
 ミーファは僕の手を引っ張る。
 僕は彼女の手に引っ張られるまま、ついていくことにした。

第一章の問題点

 自分が読み返して思ったのは、

  1. ゼファーソン卿がグランを呼び出した理由が、少し弱いのではないか
  2. グランの危機感のなさ。もう身の危険を感じ少し慎重になるべきでは?
  3. あと章立てとして分量が少ないから、統合するか何かの処置をつけるか?

 かなと思います。ご意見よろしくお願いします。