哲学さんの上京録

 これは、哲学さんがオフ会に参加するまでの経緯を書いた追想録である。
 もう一ヶ月前のことなので記憶も曖昧である。
 そして、哲学さんがふつーに東京に行くだけの話でなにもおもしろいことはないので、読むだけ時間のムダである。
 しかも、当日オフ会に参加した人にとっては特に意味のないことしか書かれていない。
 これはあくまで哲学さんの筆ならしである。
 なので、読まないでください。


哲学さんオフ会へ行く

 九月一三日。六時半。
 哲学さんは起床した。昨日というか、今日というのか、寝たのが三時半なので、事実上三時間しか寝ていない。
 寝ぼけ眼で着替える。荷物は寝る前にまとめてあるので時間的には余裕がある。
 哲学さんは旅支度を済ませると家を後にした。
 そう、今日はこのサイト『ライトノベル新人賞に応募しよう!』のオフ会の日なのだ。
 メンバーの一人である入江君人さんのお祝いのため、哲学さんは東京へと向かうのである。



 家を出て神戸空港までJRで移動する。移動中の間は西尾維新『アニメ 化物語 -佰物語-』を聞く。東京までの道中の暇つぶしとして用意していたのだが、残念ながら神戸空港へと向かうポートライナーの途上で聞き終えてしまう。意外と短かった。
 仕方ないので、周りの風景を眺めながら哲学さんは神戸空港へ向かうことにした。
 神戸空港は神戸の沖にある埋め立て地『ポートアイランド』のさらに向こうにある埋め立て地にある。なのでJRで神戸駅に移動した後、神戸駅から『ポートライナー』という電車に乗って移動するのだ。
 しかし、朝の海と言う物はそれはそれで風情があるものである。神戸空港を利用するのは何度目になるだろうか。
 以前は10,500円で神戸・東京間を飛べたのだが、不景気のせいか、10,800円に値上がりしていた。おのれスカイマーク社め。でも、新幹線より安いので利用してしまう。そんな貧乏人のサガ、悲しいサガ。
 まあそれはそれとして、神戸空港にたどり着いて哲学さんは予約券をチケットに変える手続きを行う。
「搭乗手続きは8:50までに済ませてくださいね」
 とのこと。
 出発まで残り20分の余裕がある。
 せっかくだからと空港にある土産物屋で神戸の土産として『神戸牛チップス』を買い、喫茶店で遅めの朝食を取る。
 朝起きてからここまで何も食べずに来たので腹の具合が減ってしょうがなかったのである。
 『灼眼のシャナXIX』を読みながら、コーヒーとパンを貪る。
 そうこうしているうちに
《8:40となりました。東京行きのスカイマーク○○便に乗られる方は搭乗手続きをお願いします》
 とアナウンスが流れて哲学さんは急いで搭乗口へと向かった。
 そこで金属探知機の検査があるので自分の荷物を仕分けする。
 手に持っていたチケットを一旦置いて、ノートパソコンやACアダプタ、iPod、携帯電話、家の鍵、など鞄やポケットから次々と金属物を出していく哲学さん。
 ようやく仕分けが終わったところで係の人に「チケットを出してください」と言われる。
 哲学さんは素直に出そうとして……ポケットにチケットがないことに気付く。
「あれ? あれ?」
 哲学さんは慌てて荷物やポケットをまさぐりまくる。
 空港アナウンスで乗る予定のスカイマーク社の便の手続き終了が近いとせかされる。
 ――ちょ、まさか、次の便乗れっていうのかっ! ていうかチケット代はどうなるっ! 今更払い戻ししても全額帰ってこないはずっ!
 ――やべぇっ! 超やべぇっ!
 哲学さんは必死で探すも結局見つからず、後ろに長蛇の列。
「お客様、あちらの方でお探しください」
 と係員の人に戦力外通告。列の外にはじき出されて必死で探す哲学さん。
 と、鞄にもなく、荷物にもなく、仕方なく、金属探知用に仕分けしたノートパソコンを持ち上げると、ノートパソコンの下にチケットが。
「……っ!」
 ――哲学さんのぼけがぁぁっ!
 列の最後尾から荷物をガッチャガッチャ持ちながら走り、必死でさっきの最前列の係員の人のいる場所へ向かい、
「すいません、チケットみつかりましたっ! ○○便あと1分で締め切られるので、すいませんですけど通してくださいっ!! 頼みますっ!」
 と懇願。
 なんとか哲学さんは通して貰って、搭乗口へギリギリ通して貰う。
 ――か、紙一重だったぜ!
 哲学さんはこのうっかり属性でよくどうでもいいトラブルに見舞われるが、今回も実に危ないところだった。こういうところがあるから人生で余計な気苦労が絶えないのだけれど、まあ、それはまた別のお話。
 哲学さんは飛行機に乗り込み、真ん中の非常口近くの席に座る。通路側で空いてる席がそこしかなかったのだ。
 非常口付近なので荷物は上にしまわなければならない。他が足下に荷物を置いてる中、フライトアテンダント(注:スチュワーデス。空に飛んでいるものだけを指す)さんに早く荷物を上に上げてくださいとか注意されつつ、哲学さんは荷物を上に置き、座った。
 かくて、九時を過ぎ、哲学さんは機上の人となった。



 九時五分。
 機内アナウンスによってシートベルトを解除してもよい、と言われる。
 哲学さんはシートベルトを解除するとすぐさま荷物の中からあらかじめ取りだしておいたノートパソコンを起動する。
 オフ会に参加する前に、自分で出した三題噺を書くためである。
 三題噺とは、端的に言えば与えられた三つのお題に関するお話を書く、というただそれだけのことである。
 海燕さんに提案してみたら、「誰も書いてこないでしょう」と言ってたので、まあこのまま行くと本当に誰も書いてこないことになるので、言い出しっぺの哲学さんだけでも書いていこうという魂胆である。
 さて、お題は『漢字テスト』『すふぃんくす』『オフ会』である。
 二週間前のチャットの席で、「オフ会どうしよっか」とか話してたら何故か海燕さんがやたらmixiの漢字テストにはまってて、「獅子女」でひっかかって、「なんだよ、スフィンクスって!」と愚痴ってたり、「誰だよ、漢字テストの話題してるのは。それよりオフ会の話しようぜ!」となったりならなかったりしてたことがお題の元ネタである。
 さてさて、お題そのものは二週間前に出していたので、書く内容の大枠はできている。
 まずは、『オフ会』と言うキーワード。
 オフ会と言うことは普段通信でしか会わない人たちが集まるのである。どこから集まるのだろうか。
 決まっている。全銀河から集まってくるに違いない。
 だが、ただ会って話すだけではつまらない。
 きっと中に入るには資格が必要に違いない。
 そこで『漢字テスト』である。
 で、その漢字テストを行うのは知の守護者『スフィンクス』に違いあるまい。
 後は、その漢字テストはせっかくだからmixiの漢字テストではであったような「キーボード」でできる漢字テストではつまらない。
 ならばそれを逆手に取ったテストに違いあるまい。
 そんな発想から大まかな流れが浮かび、哲学さんはいそいそと執筆を開始する。
 そして、時間が経ち、あと数行でオチへたどり着く……そんなところで
「お客様、今から当機は着陸態勢に入りますので荷物をしまい、シートベルトの着用をお願いします」
 と、フライトアテンダントさんが言ってくる。時計を見ると九時五五分である。
 ちょっ! オチまであと僅かなのにっ! なんだよっ! ちょっとぉぉぉぉぉぉ!
 と色々と心中愚痴りまくりつつ
「すいません、すぐしまいます」
 と言って、いそいそとノートパソコンを前の席の後ろにある網の部分にエチケット袋と一緒に入れて、シートベルトを締め直した。
 残念。まあ、完成は現地ですればよいだろう。



 10時05分。哲学さん羽田の地に降り立っていた。
 哲学さんはシャナを読みつつ、電車で移動。念のため、「東京に着きました。11時30分頃にそちらへ到着すると思います」と海燕さんへメールを入れておく。
 品川から新宿へ向かい、池袋の地へ。
 そして、11時24分。
 オフ会の会場のある建物に哲学さんはやってきたのである。
 そこは喫茶店と一体型になっており、喫茶店の隅に会議室が幾つかあった。1号室と2号室のランプがついている。
 ――どっちだ?
 とりあえず、海燕さんに「到着しました。オフ会の会場は何号室でしょう?」とメールを送る。
 が、返答はこない。
 喫茶店の中をリュックを背負った哲学さんがケータイをじっと見ながらうろうろーうろうろーする。
 そこへ、さすがに不審がったのか、ウェイトレスさんが声をかけてくる。
「あの、お客様、どうされたのでしょうか?」
「えーと、ここで知り合いが会議の予約をしてるはずなんですけど、何号室か分からなくて、今ケータイで連絡して返答を待ってるのです」
「予約された方の名前は分かりますか?」
「えーと、どういう名義で取っているのか分からなくて。15人くらい集まる予定なのですが」
「もしかして、SomethingOrange様でしょうか?」
「ああ、それですっ! おそらくっ!」
「でしたら2号室になります」
「ありがとうございます」
 と言うわけで哲学さんは2号室の扉をこんこんとノックした。
 なかからはいー、と声がしたのであける。ぱっと見、通路から6人くらいの人間が見えた。
「どうも、哲学です」
 挨拶をしつつ、通路を進んで行くと部屋が開けて15人前後の男達が一つの部屋に集まる様が一望できた。
 ――ここにいるっ! 全員がっ! 小説家志望だとぅっ! 多いなっ! なんか異様な空間だよっ!
 席は二つ空いてあり、一つは奥の方、もう一つは手前の角の席である。
 入り口に近いから手前の席に座ろうとしたら近くにいた人がどさっと椅子に鞄を乗せて
「はい、向こう行って」
 と華麗に阻止された。
 ――おいぃぃぃ、なんだそりゃぁぁぁぁ、なんだこのsっぽい人はっ! 哲学さんもsだからいじめられるのは得意じゃないぜっ!!
 が、まぁ、よくわかんないけど他の人も向こう行け的な視線をビンビンとばしてくるので哲学さんは奥へと進む。
 そこではたと気付く。
 奥の席は後ろにテレビとホワイトボードが設置され、奥にある席の二つの席の片方には入江とかかれたネームプレートをぶら下げた眼鏡の好青年が座っている。
 ――はっ! これはっ!
 日本の部屋の間取りを脳内で瞬間的にサーチ。
 ――上座だっ! 上座だよこれっ! めちゃくちゃ上座じゃないかっ!!
 あわわわわ、なんということだろうか。
 ――ブリーフィングルームなら確実に偉い人とか目上の人とかが座る席だよ。フルメタでたとえると主に入江さんが座ってる席がテスタロッサ大佐が座ってて、哲学さんが座らされそうな席はアンドレイ・セルゲイヴィッチ・カリーニン少佐が座ってる席だよっ!
 哲学さんは移動しつつも視線を巡らせる。
 ――哲学さんてば、ポジション的にそんな偉い人用の席に座る人じゃないだろうっ! 海燕さんはどうしたよっ!
 入江と書かれたネームプレートのついた人の隣の角席に海燕さんは座っていた。
 ―― 補佐席っ! 上座の90度隣の席っ! フルメタ的に言えばマデューカス中佐とか座ってる席じゃないかっ! ずるぅい! 上座に近いけれども、それほど目立たず負担の少ない席じゃぁぁんっ! おのれ、海燕さんめ、実に上手いポジションに座りおって!!! 逆だろうっ! 本来ならば入江さんの今座ってる席が海燕さんの位置で、今哲学さんが座らされそうな席が入江さんの席じゃん! ここゲスト席だよっ!
 ……なーんて内心の実にどうでもいい葛藤を一瞬で浮かべるも、まあ、そんな格式にこだわる席でもないか、と哲学さんは諦めて、「どうもどうも」と言いながら指定された席へやってきた。
「意外に早かったですね。昼からって聞いてましたけど」
 と、海燕さんが話しかけてくる。
 ちらりとテーブルを見ると海燕さんの手前に投げ出されたケータイの姿が。途中の連絡メールは一切見られてなかったのだろう。まあ、トークが弾んでいたに違いあるまい。
「ええ、なんせ飛行機でしたからね。早いもんです」
 ネームプレートを受け取り、哲学さんはそこに自分の名前を、ただ「哲学」とだけ書く。
「×××らしいですよ」(←オフレコ)
 そこへすぐ側の席、海燕さんの対面に座っている人から話しかけられる。
 ニヤニヤと笑う謎の人。
 よく見るとスーツ姿だった。
 ――あれ? 周りの人みんな私服なのに。
 どういうことか。紳士がいる。紳士が紛れ込んでいる。
 ちなみに、オフレコの内容はその場で入江さんが解説してくれた。
 ――なるほど……でも、何故到着してすぐのこのタイミングでそのことを話しかけてくるのさ。
 この謎の紳士への謎は深まるばかりである。なんか、座席の関係でネームプレート見えないし。果たしてこの人は誰なのか。
 まあいい、ともかくネームプレートを首にかける哲学さん。
 そして、全員に向かって再度挨拶する。



「どうも、哲学です。よろしくお願いしますっ!」


 果たして隣の席に座っているこの紳士は何者なのか。
 着席を邪魔したSっぽい人はなにものなのか。
 よくみたらスーツを来たなんか出版に詳しそうな人がいたけど、なにものなのか。
 ついでに、みんな飲み物飲んでるけど哲学さんにはいつ飲み物が来るのか。
 果たして途中参加の哲学さんはみんなの話題についていけるのか。
 数々の謎を残し、哲学さんのオフ会参加が、今、まさに始まろうとしていたっ!!!!!!



哲学さんの次回作にご期待ください



 と言うわけで哲学さんが東京に行くまでのお話でした。
 うーん、これを書くのに三時間もかかってしまった。
 まあ、誰にも需要はないと思いますが、どうぞ。