プロットA・冒頭

 今、書き進めているプロットAの冒頭を晒してみます。長文ですが、批評・意見・感想をお聞かせ下さればと思います。

本文

 吟遊詩人は世界を放浪し、歴史の断片を書き始め、一つの体系だった物語として、重く美しくはかない詩にまとめあげる。
 吟遊詩人本人には、それが本当に起こりえたものなのか、それとも本当には起こらなかったものかはわからないが、しかし、彼らは自らが謳い上げる物語を誰よりも真実であるものとして自負し、聴衆も同じように、そこで謳い上げられる物語を、猜疑の目と、なおもその物語を信じるように、その詩へ引き込まれる。
 だが、なおもそのような真実として謳い上げられる物語がある一方で、明らかに嘘と見栄と虚構に満ちた一つの歴史がある。

 ――その一覧を、人は「偽詩」」として蔑む。

 僕はその「偽詩」を書こうとしている。草稿用の反故紙の束を前にして。
 隙間風が、弱弱しく光を放つ蝋燭の炎を揺らす。インク壷から羽で出来たペンを取り出し、書き始めてみる。だが、詩の始まりに到ることがない。ただ力の無い言葉は、残酷にも、横棒を引かれ、破棄される。いつの間にか、無かった事にされた「始まり」は数えれば、既に十行近くとなり、自らの表現力の無さを恨むしかなくなる。
 文を書き足したり、線を引いたりする単純作業を繰り返すと、窓から何か叩く音がする。
「ちょっとー、グラン、いるんでしょー?グーラーン!」
 無視して、紙に視線を落とすと、破裂音が聞こえる。
 何事か、と振り向いてみると、ガラスが惨めにも粉々になっていた。
 僕はため息を吐く。ガラスを割った張本人である少女は、当然の権利のように、窓の鍵を開け、部屋に入ってくる。
 床を踏むたびにガラスが砕ける音がする。こちらの視線に気がつくと、大きな瞳を細めて笑い、ピースサインをこちらに突き出してくる。
「なんだよ、ミーファか。というより、ピースじゃないよ、バカ」
 僕が声を荒げると、ミーファは少し膨れ面をして、ベットのほうへ腰掛け、足を上下に動かす。
「ちぇ、いいじゃん。どうせこんな寒くても暖炉付けないんでしょ?」
 灰と埃が溜まった暖炉を指して、ミーファは言う。
「焚き木を買うお金が無いんだ。無駄な出費が多すぎる。ガラスだって修理しなければならないし」
 ガラスから吹き込んでくる風が酷く寒い。蝋燭の炎も耐えるように横たわっている。僕は被っていた毛布をさら深く被る。
「本当に何も無い部屋だよね、私がドロボウに入ってから何も変わっていないね」
 この部屋には暖炉、机、ベット、紙の束、それに加えて愛読している詩集数冊しかない。以前は、もっと物が多かったのだが、何度か事件に巻き込まれ、部屋を追い出される経験を繰り返すのちに得た教訓として、物を少なくすることにしたのだった。
「まあな。まさかドロボウに同情させることが出来る部屋なんて他にないだろう」
 ミーファはそのままベットに倒れこむ。
「どうせ、報酬なんて微々たるものでしょ、やめてしまえばいいのに、偽詩作りなんて」
 暫くの沈黙のあと、勢いよく起き上がり、身をこちらに乗り出す。
「あ、そうだ!私と盗賊やればいい!グランは痩せ型だし、いいと思うよ」
 僕は呆れながら、執筆に戻る。
「今回は、些細な偽詩じゃないよ、今回はかの有名な貴族様でいらっしゃる、ゼファーソン様から依頼が来ているんだ」
 僕はふざけて軽い口調で答えた。しかし、ミーファの声が、先ほどの軽い口調から、少し重い口調になる。
「ゼファーソン……?ね、ゼファーソンって言った?」
 その唐突な変わりように、僕は驚いて顔をあげて振り向く。
「うん……?たしかに言ったけど、どういうこと?」
 ミーファは眉を潜めていた。暫く俯いたのちにゆっくりと顔を上げる。
「ね、今、時間あるかな?」
 僕は大げさに、怪訝な顔をしてみる。
「時間はあるけど……どうしたの?」
 ミーファは窓に乗り出した。
「じゃあ、先に行って待ってる。場所は例の酒場」
 そう言い捨てると、ミーファはそのまま窓から飛び降りた。
 僕はといえば、目の前に散らばっているガラスを掃除する手間を考え、少しため息を吐く。
 ただ突っ立てても仕方ないので、酒場に向かう準備をする。既に厚手の布切れか雑巾としか思えないようなマントを羽織り、片手にランタンを持つと、部屋を後にする。扉を開け、外に出ると、冬の風が鋭く突き刺さる。
 寒い。とにかく寒い。
 部屋の寒さから、ある程度は予期していたが……これほど酷いとは。
 もっと気の利いた防寒具があれば、こんな苦労をしないのにと思いながら街を歩く。街灯は既に消されている。
 記憶を頼りに、裏路地に入り、奥へ奥へと入っていく。地面の泥が粘り、靴に絡みつく。
 歩き続けるにつれて、人の声が聞こえてくる。次に、光が見えてくる。そして、酒場は姿を現す。扉にかけられた灯りが弱弱しくその存在を示している。
 ――ここだ。
 触ると崩れそうな扉を押す。扉を開ける音が、店中に自分の存在を知らせる。既に酒を楽しんでいた客の一人は、僕のほうを振り向き、旧知の友の如く馴れ馴れしく話しかけていた。
「よお、グラン、久しぶり、なにやってたんだよ」
 大男は赤い顔を突き出して肩をたたく。強く叩くせいで背中が痛い。
「ああ、ドンファンさん、こんにちは。今日はあんまり酔っ払ってないみたいですね」
 大男は口を開けて馬鹿みたいに大きな声を出して笑う。
「がっはっはっは!お前さん聞いたよ、こないだ豪商の、俺が元貴族だって褒め称える詩を作れ、っていわれて書いたんだろ。そしたらそいつ商売で大失敗してトンズラして、必死の思いで書き上げて渡しに言ったら、モヌケのカラだったっていうじゃねえか、バカだなあ、そんな中途半端な仕事をしているからそーなるんだよ、俺みたいに男は力、力、力ってことでよお、ヒック」
「うるさい、グランに話があるの!変に絡まないで!」
 声のほうを振り向くと、ミーファがカウンターの席にて拳を上げて怒鳴っている。
「おお、怖い怖い、ミーファお嬢さんは気が強いからねえ、へっへっ」
 大男はおどけるように、少し舌を出して席に戻る。僕はミーファの隣に座り、安物のワインを頼む。
「そんな弱い酒飲んでいたらバカにされるよ」
 ふと横をやると、ミーファはバーボンのロックを飲んでいる。この幼顔の何処にそんなものが飲める力が備わっているのか不思議だ。
「仕方ないだろ、僕はミーファと違って酒に弱いんだから」
 酒場の主人は笑いながら言った。
「コイツ、もうバーボンを四杯も飲みやがったのにケロっとしている。酒の飲みっぷりからすれば、女にしておくのはもったいねえってことだ」
 まあ、そりゃそうだろうな、と僕はコップに出されたワインを飲みながら思う。ワインは少々泥臭かった。安物のワインはこうでなくてはいけない。
「で、ミーファ、ゼファーソンの話なんだけど」
 ミーファはバーボンを飲み干し、もう一杯の合図をすると、こちらを振り向いた。
「ああ、そうね。依頼は受けたの?」
「いや、まだだよ。明日に返事をするつもり。依頼は受けるつもりだ」
 ミーファは興味なさそうに相槌を打つ。そして僕の目を見る。
「で、どれだけ知ってるの?ゼファーソンのこと」
 僕は腕を組む。少し考えて、言葉を選びながら話す。
「ゼファーソン卿。貴族。とはいえ家柄関係は不明。従って類縁関係も不明。没落貴族か、亡命貴族かというところは意見の別れるところ。ただ土地相続ならびに遺産相続でその場所に長らく住んでいる貴族ではない、というのははっきりしている。ゼファーソンは一人の妻を持っているが現在子供はおらず。自分がわかっていることはこれくらい」
 ――偽詩を頼む人間の典型的なパターン。
 自らは力がある。
 しかし、それが全く歴史とかけ離れている。だから捏造する。
 自らが、権力を持つべき人間であるということを知らしめ、納得するために。
 それがどれほど嘘であっても。
「よく出来ました」
 ミーファは拍手をする。
「でも、まあこれくらい知ってて当然だよね、偽詩を書くくらいだから。問題はその家柄関係と類縁関係。彼は何処からやってきたのか、ってところがポイント。でもそれは知らないよね」
「知らないね、というよりミーファがこの件に関して興味を持つ理由が全く理解できないよ」
「んー……盗賊の勘、かな。銭の臭いがするなー、って直感。でもこの手の直感は、盗賊家業には必要なの」
「しかし、俺の部屋に入ってきたところで、その直感はかなり信頼出来ないものになる」
 ミーファは少し口を尖らせる。
「まさかあんなに何も無かったら逆になにかあってもおかしくないと思ったの!」
「はいはい……ただ、でもそれだけじゃないんだろ」
「それだけじゃないって?」
 僕は残りのワインを飲み干すと、二杯目を注文する。
「勘だけじゃないんだろ、もう少し何かをつかんでいるんだろ。じゃなかったらあんな怖い顔するわけないだろ」
「逆に聞くよ、私が何をつかんでいると思う?」
「んー……例えば、実は隠し財産を持っているとか、本当はゼファーソンは入れ替わっていて、別の存在であるとか」
 ミーファは腹を抱えながら笑う。
「あはは、それの何処が怖いの。うーん、単純な話だよ。いろんな噂が飛び交っているから気をつけなよ、ってこと。穏便なところでは裏で奴隷貿易をやっている。無茶なところだと、実はゼファーソン様はヴァンパイアで処女の血を求めて夜中を彷徨っているとかね。なにはともあれ、一癖も二癖もあるよ、ってこと。ゼファーソンのところには私達よりも遥かに胡散臭い人間が出入りしている情報もあるからね。あと酒が飲みたかったということ」
 僕は興味無いように相槌を打つ。
「なるほど、余計な真実を知ってしまってまた身を危険に晒すなよ、ほどほどにしておきなよ、っていう忠告か」
「そういうこと。胡散臭い噂があるということは、それだけ胡散臭い本当もあるかもしれないってこと。まー、それが本業の貴方には、豚に真珠、猫に大金ってところだけどね」
「それを言うなら猿に木登りだろ」
 僕は最後のワインを飲み干すと、勘定を払い、店を出た。

問題点

 現状として、自分が気になっている部分・課題は下の通りです。

  1. 華がない、展開が非常に単調?
  2. シーン展開が唐突で自然ではないよう?
  3. キャラクターにブレが見える?

 皆さんのご意見、よろしくお願い致します。