哲学さんのネクスト投稿作感想

 読んだので感想。
 では順番につらつらと。

文章について。

 こういう話には一人称、あるいはキャラ視点よりの三人称が合うと思います。
 実際はカメラがずっと遠くにある三人称でした。このやり方はキャラクターが状況をばんばん変えるタイプの小説と相性が良いです(アクションなど)この作品にあっていないわけではありませんが、もうちょっと速さと視野の「狭さ」がほしい。
 これは一人称の小説を書くと良い練習になると思います。失礼ながら最優先で克服すべき弱点だと思います。

接続詞が文頭に来ることが多い。

 文体、リズムと言えなくもないけれど僕は変だと思う。たとえば一章の一ページ目を抜きだしてみると「男子校、新川、なんと、別に、女禍、かてて加えて、そんな、たとえ、しかし、別に、そんな、とはいえ、別に」と半分以上が接続詞。状況説明のシーンはこの傾向が特に大きくなります。前文を受ける形の接続詞は、実はなくても支障ありません。あと遠いカメラの視点だとどうしても説明を入れなくてはならなくなりますが、ズームすることでスマートに流すこともできます。それがいわゆる描写だと思います。

カメラがずっと遠くにある。

 緊迫したシーンでも視点が俯瞰なのはちょっと問題あるかも。

地の文でキャラクター名が書かれるとき。

 名前が判明してからも代名詞で書かれることが多いです。
 たぶんカメラを遠くに置いておきたいからだと思うのですがアルジなんかは「少年」率が高いです。アルジを少年と呼んだ後、同級生が現れてそれも少年と呼ぶのは混乱の元。

パロディ。

 僕のなかでは「絶対にやってはいけないネタ」です。他の人はどうだかしらないけれど面白さを外部に依存しすぎる構造はどうかと思います。まして新人賞に送る作品です。
 僕がこの手のネタをやるときは明確な対象がいないときと自分がそのネタにきちんと答えられているとき、あとは誰にも気付かれなくて問題ないときしかやりません。

展開について

 一章の流れはうまいです。しかし二章三章と進むうちに展開があやふやで遅くなっています。これは設定の開示と展開の不均衡によるものだと思います。
 設定に追われて展開が狭いものになっている。そんな風に感じました。個人的に設定とは五七五などの決まりみたいなものだと考えています。作者自身がそれをさだめ、作者自身がそれで遊ぶ。(あまりに優秀な「決まり」には他の人間も遊びに来る。それがスピンオフや一部の二次創作)
 このあたり僕も上手く説明できませんが。設定、それ自体が物語を動かす機関になっては(なりすぎては)いけないと思うのです。設定が「こうだったからこうなった」といった説明や「こうだからこうする」といった理由になるのは良くないと思います。
 物語の根幹に食い込んで、それでいて姿を見せない。そんな設定が素敵です。描写しましょう。

細かな展開について

 上の話と関連しますが。登場人物の「愚かさ」によって運ばれる物語は、やはり下策だと思います。
 アルジの肝心なところで抜けているという設定はもっとうまく使わないとただの阿呆な人間に見えます。

>「化け物は現れるんじゃない。おそらく、無理矢理カードに呼ばれているに違いない」
 この発想には違和感を覚えました。カードを持った人間の所にしか化け物は現れない。となれば普通、化け物はカード使いを狙っている。と考えるとおもいます。

 先回りして、まったく関係ない展開を潰すようにキャラクターが動いている事が結構あります。
>「ヴォォフッ(一晩考えて出した結論はそれか。なんと浅はかな。私が君を諦める可能性や、誤って殺す可能性など、様々な可能性がある。
 上の台詞まわりやアルジの多角的思考などがその例です。穴を埋めるためなのでしょうが、発展しない展開先を提示されて、ただ潰されるのは混乱を招きます。単純かつ強力なキャラや状況で動かした方が読んでいて気持ちの良いものになると思います。
 あと上の後の、
>「《英雄星》とはね――」
>とそこで魔女は言葉を切る。
 のところの魔女ですが、最初どっちか分からなかった。

 名付け親の設定はもうちょっと伏線張った方がいいかも。納得は出来るけれど違和感は残る。

ラスト

 ラストバトル前に全ての決着がつくというのはもうちょっと練らないとまずいと思う。カタルシス的な意味で。これが中、後半のダレにも繋がっている。

物語について

 あかねのキャラクターは大成功でしょう。一番生き生きとしていました。反面、他のキャラは設定にある内面を書けていませんでした。アルジは設定はすごく優秀で面白いのですが書かれると傲慢なアホの子に見える。キャラクターの掘り出しが設定の開示にしかなっていないのです。これは根の深い問題でして、一つ一つの細かい描写が物を言う作業なので、地道なレベル上げがいります。具体的にはそういうのが得意で、かつ分かりやすく書いている作家を研究するといいです。(そんなのいたかなと思いましたが、米澤穂信とか橋本紡などのいわゆる越境組の文章がいいかも)
 ちなみにさっきから描写という言葉をよく使いますが。僕の使う描写の意味はちょっと広くて「バックグラウンド、設定、キャラ、進行、それら全てが最適に料理されて、最適に提供されるさま」というものだと思っています。
 あと「魔法使いとか化け物の設定はすべて魔女が作りました」ってのはちょっとえーと思う。(もっと大きな魔法設定があってそのなかでの話なのだろうけれど)物語の根幹部分にある設定を長々語った舌の根も乾かぬうちにひっくり返されるのはどんでん返しとは言わない。シリーズ物の最後ではアリだけど(お約束といっても言い)一作目でそこを返しちゃうのはまずい。

脳内垂れ流し

 なんでジプシーで黒人なんだろう。三人称のズームとパンでの地の文があやふやなときがある。ボス先輩とレズ先輩は笑った。あかね可愛いよあかね。レズ先輩空気、設定集で言われるまで気付かないくらい空気。アルジはかっこいいときとかっこわるいときで大きな差があるなぁ。一章がなぜ面白いかについて分析するといいかも。一章に出てくるキャラの特徴的な外見描写はなんどか復唱したほうがいい、アルジの眼鏡とか魔女の肌の色とか正直忘れてた。

総評

 楽しかった。が面白くはなかった。そんな感じです。…オチとカタルシスがなぁ。文章も展開も物語も、書けているけど足りてない。設定の深い部分がきちんと作られているのは分かりましたが、おもてに出てくるキャッチーな部分がどうにも古臭いです(カードとか呪文)一番人目につくところなのでその辺もっと練って欲しい。

最後に誤字上げ。

から消えていた。愕然とする少年。(アルジの名前はもう出ているのにここだけ少年。カメラを遠くにおきたいのならアリ)アルジに取っては(たぶん間違っていると思うけど自信ない)軽く密室(会話ならありですが地の文だと違和感)見てやはり、絶対に(やはり、に違和感)あんたはは、一人の一匹の回答、貰った貰った礼、RGと同じ学校の生徒も居れば(あかねはRGというあだ名を知らないはず。そうでなくてもあかね視点の文でこの呼び方はへん)主婦も居れば、魚屋の親父もいる。(表記揺れ)代わる代わるありがとう、ありがとうと言葉を重ねてくる(間違ってはいないがさすがに重ねすぎだと思う、意味が三重になっている)死なない地震、制約のせいで制約のせいで、煽る→呷る、