はじまりはじまりの事

 新しく小説を書く度にオープニングの難しさに打ちのめされます。
 何しろ読者という人々はその瞬間瞬間に「読むのを止める」という恐るべき権利を有しています。終盤なら、せっかくここまで読んだのだから……と思ってくれるかも知れませんが。序盤で気に入らなかったらその物語はそこで終了です。

 そこで書き手はいったい何ができるのか。
 僕達は答えを知っているはずです。最初のシーン、最初のページ、最初の一文で心を奪われた経験があるはずです。ただその境地を目指せばいいはずなのですが……
 
「九歳で、夏だった」「この村では、見事に実った麦穂が風に揺られることを狼が走るという」「腹上死であった、と記載されている」「心象のはいいろはがねから」


 答えは分かっているのに遙かに遠い。